男女共同参画
学術変革(A)「マテリアルシンバイオシスのための生命物理化学」共催
男女共同参画推進・若手研究者育成委員会
ランチョンセミナー
博士のキャリアをどう作る?
講演1:北海道大学 大学院医学研究院 特任准教授 天野麻穂
研究者多様性保全の途上にあるアカデミアで、私たちはどう生きるか?
はじめまして。私はURAからの出戻り女性研究者で、北大初の「代表取締役兼業正規教員」です。さて、みなさんはアカデミア研究者の「多様性」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。直観的には「多様性=さまざまなマイノリティ」、すなわち、外国人や女性の研究者、育児と研究を両立させているイクメン研究者、などを考えつく方が多いかもしれません。マイノリティ=マジョリティではない(=語弊があるかもしれませんが「集団の『標準』から外れている」)存在としては、現在の我が国のアカデミアでは「起業家研究者」も、多様性をかたちづくる一員と言えるでしょう。社会全体がダイバーシティ推進を掲げ、政府が昨年を「スタートアップ創出元年」と定め、大学も支援策を拡充しているはずなのに、まだまだ不便や不利を感じる場面が減らないのが現状と思います。私たちが一人もとりこぼされることなく、健康でやりがいのある研究者生活を送るには、どうしたら良いでしょうか。このセミナーで、みなさんと一緒に考えていけたらと思います。
講演2:北海道大学 理学部 教授 中野亮平トーマス
ドイツで4人の子どもを育てながら感じたこと
2003年から京都大学で学生時代を過ごした後、ガラッと分野を変えてポスドクとしてドイツにやってきたのが2013年。それから10年間ケルンでコツコツと研究を続けました。渡独してすぐに生まれた長女はもう9歳になり、さらに6歳の長男と3歳の双子の次男と三男と4人の子どもに恵まれました。親や親戚のサポートもなく、ほとんど言葉も通じない(特に役所や幼稚園)環境で育児に振り回されながら、しっかり研究をやって公募戦線で激戦を繰り広げるというのはなかなかタフな経験でした。家庭と仕事、どうバランス取ってるの?と聞かれても、バランスなんか取れてませんとしか答えようがない世界の中で、とにかく日々のやるべきこと/やれることをこなしていく。それをなんとか乗り越えて職を得ることができたのは、ドイツの「家庭を大事にする風土」というものも大きかったのかもしれません。海外で育児と研究をやって感じたこと、そこから日本に帰ってきて感じていること、その中で自分が学生を指導する立場としてなにができるのか、アカデミアから始まるキャリアパスはどうあるべきなのか、色々に頭を駆け回る思いを短い時間で少しだけでも言葉にしつつ、皆さんと一緒に未来を描いてみたいなと思います。
対談:博士を取った後、どうする?
天野麻穂(北海道大学 大学院医学研究院 准教授)
中野亮平トーマス(北海道大 理学部)
嶋貫悠(細胞生物若手の会、京都大学 生命科学研究科 修士2年)
井上喜来々(細胞生物若手の会、大阪公立大学理学研究科 博士1年)
一色和奏(細胞生物若手の会、大阪大学生命機能研究科 5年一貫制博士課程3年)
(司会)大澤志津江(名古屋大 理学研究科)
(司会)佐藤あやの(岡山大 ヘルスシステム統合科学研究科)
ランチョンセミナー 1
協賛:株式会社エビデント
講演1:藤田 祐崇(株式会社エビデント)
研究の信頼性と効率の向上に貢献するEVIDENT対物レンズ
対物レンズは顕微鏡システムの光学性能を決める重要な要素となります。現在、200種類以上の対物レンズが存在し、対物レンズの持つ光学性能を正しく理解し、研究用途に応じて最適な対物レンズを選択することが重要となります。
本セミナーではEVIDENTの製造技術革新により3つの光学性能「開口数(NA)」、「フラットネス」、「色収差補整」の全てを飛躍的に向上させ、研究の信頼性と効率の向上に大きく貢献するX Line ,A
Lineについて紹介致します。
講演2:加藤 孝信(東京大学大学院 医学系研究科 細胞生物学教室)
先進的光学顕微鏡と超解像顕微鏡によって明らかになった、体の左右軸を決定するノード不動繊毛の生物物理的メカニズム
どのように細胞は細胞外の力学的環境をセンスして、生命機能を制御するのだろうか。その一例として本セミナーでは、体の左右軸決定をつかさどる力学的なシグナルの研究を (1)、使用した光学顕微鏡技術と共に紹介する。 なぜ私たちの心臓は左側にあるのだろうか? 受精卵は発生が進むとともに前後・背腹・左右の3軸を獲得し、非対称な体を形作る。とくに、マウスの場合は受精後7.5日目に左右の対称性が破られる。そのメカニズムとして、初期胚のノードという部位で左向きのノード流という流れが生じ、その流れの向き依存的にノード不動繊毛 (一次繊毛) が左側を決めるシグナル (Leftyなど) を活性化することで左右軸を決定することが知られる(2)。しかし、ノード不動繊毛がどのようにノード流を感知し、なぜ左側だけで活性化するのかは未解明であり、特にメカノセンシング仮説とケモセンシング仮説で論争が起きていた。 我々は独自の光学顕微鏡を駆使することにより、メカノセンシング仮説を強く支持する結果を得た。まず、ノード流を光制御しながら繊毛をライブ高解像度撮影する技術を開発し、ノード不動繊毛が流れにより物理的な曲げ変形を受けていることを明らかにした。さらに光ピンセットというレーザー光を用いた顕微操作技術(3) によって、ノード不動繊毛が力学的な刺激によって活性化することを明らかにした。最後に超解像顕微鏡を用いてノード不動繊毛に局在するチャネルの分布を詳細に解析することによって、ノード不動繊毛が「曲げられる向き」を感知できる特別なメカノセンサーであることを発見し、左向きのノード流によって左側の不動繊毛のみが活性化されることを説明した(1)。
ランチョンセミナー 2
協賛:ライカマイクロシステムズ株式会社
講演1:波田野 俊之(ライカマイクロシステムズ株式会社)
細胞生物学における、2つの次世代イメージング技術のご提案
近年、細胞生物学では①オルガネラ膜内外を識別できる超解像度の局在データや、②局在だけでなく分子機構の手掛かりとなるデータもより求められていますが、超解像度イメージングは敷居が高い、局在と分子機構を繋ぐ実験手法が限られているなどの難点がありました。今回ご紹介する、ライカマイクロシステムズの超解像度技術STELLARISは、①超解像かつライブイメージングを、従来の共焦点顕微鏡と同程度の操作感で実現可能にし、②新たな切り口である蛍光寿命イメージング技術を手軽にご利用頂ける形にし、機能イメージング(分子間相互作用、pH変化、DNA凝集など)を身近にしました。より精密な分子の局在解明から、分子機構の理解への架け橋となれば幸いです。
講演2:大澤 郁朗、藤田 泰典(東京都健康長寿医療センター研究所・生体調節機能)
複製老化とミトコンドリア
主要老化学説として、フリーラジカル説を背景とするミトコンドリア異常説がHarmanによって1972年に提唱された。以降、ミトコンドリア機能異常が細胞老化を開始・促進すると考えられてきた。一方、ヘイフリック限界として著名な分裂寿命によって生じる細胞老化は複製老化と呼ばれる。体細胞は一定の分裂回数を超えると分裂速度が低下するが、この過程で超解像STED顕微鏡でライブイメージングされるミトコンドリアと内部クリステの形態学的異常は起きない。呼吸鎖機能低下や活性酸素種の増加も生じない。一方、ミトコンドリアの翻訳阻害は分裂寿命を延伸した。以上の結果は、細胞老化の多様性を反映している。
ランチョンセミナー 3
協賛:株式会社ニコンソリューションズ
講演1:石井 優(大阪大学大学院生命機能研究科)
生体イメージングによる免疫炎症動態の解明:新たな病原性細胞の発見
生命システムでは「動き」が重要である。多種多様な細胞の動態は時空間的に精緻にコントロールされている。このようなシステムの研究には、従来の組織学的解析法では不十分であった。固定・薄切した組織観察では、細胞の「形態」や「分子発現」などを解析することはできるが、細胞の「動き」を解析することはできない。細胞の動きを見るためには、「生きた細胞」を、「生きた組織」「生きた個体」の中で観察する必要がある。本講演では、演者がこれまで行ってきた様々な組織における生体イメージングと可視化情報に基づいたシングルセル解析の実際を紹介し、見ることによって初めて分かった様々な細胞の巧妙な動きや、生体を見ることによって見つかってきた新たな細胞種について解説する。
ランチョンセミナー 4
協賛:カールツァイス株式会社
講演1:市川 明彦(カールツァイス株式会社)
幅広いアプリケーションに最適な低ダメージ・高速・超解像・ライブセルイメージング
超解像顕微鏡はその技術の進歩とニーズの高まりにより、ライフサイエンス分野において急速な広がりを見せています。ZEISSでは、このニーズの高まりとその変化に合わせて、革新的な超解像顕微鏡を発表し続けて参りました。研究者の皆様のご要望にお応えする豊富なZEISS超解像顕微鏡ラインナップの中から、今回は、幅広いアプリケーション・ライブセルに最適な超解像顕微鏡システムをデータ例と共にご紹介致します。
講演2:田口 友彦(東北大学大学院生命科学研究科)
哺乳類細胞における新規リソソーム分解経路の発見
自然免疫は先天的に備わっている異物に対する応答機構であり、感染初期の生体防御において重要な役割を果たしている。近年、DNAウイルス感染時に宿主の細胞質に持ち込まれるウイルスDNAに結合して活性化する酵素
cyclic GMP-AMP
synthase (cGAS) 、およびcGASによって産生されるセカンドメッセンジャー cyclic GMP-AMP
(cGAMP)に結合する小胞体タンパク質STINGが相次いで同定された。cGAMPに結合したSTINGはTBK1キナーゼを活性化し、ついで活性化したTBK1がIRF3やNF-κBなどのインターフェロン応答および炎症応答に関与する転写因子を活性化する。このcGAS-STING経路によって、我々はDNAウイルスの侵入を速やかに感知し、感染を食い止めている。さらに最近、cGAS-STING経路がウイルス感染時だけでなく、老化や腫瘍免疫などにおいても極めて重要な役割を果たしているとの報告が多数発表され注目を浴びている。
ここ数年の間にSTINGシグナルの活性化分子機構について多くの論文が発表され、trans-Golgi
networkでSTINGがTBK1を活性化すること、その過程にSTINGのパルミトイル脂質修飾が必須であることなどが明らかになった。その一方で、trans-Golgi
networkで活性化したSTINGシグナルがどのように終結するのかは不明であった。今回、AiryScanを駆使した超解像度顕微鏡を利用してSTINGのpost-Golgi輸送経路を詳細に解析したところ、リソソームが直接STING膜を内包化して分解する現象を見出した(Kuchitsu
et al., Nat Cell Biol 2023)。本演題では、この新規リソソーム分解経路の制御因子およびその破綻によって引き起こされる疾患について、最新の我々の知見を紹介させて頂く。
ランチョンセミナー 5
協賛:サーモフィッシャーサイエンティフィック
講演1:大塚 正太郎(マックスペルーツ研究所)
光・電⼦相関顕微鏡法で細胞のダイナミクスを可視化する
2014年には超解像顕微鏡法が、2017年にはクライオ電子顕微鏡法がノーベル賞を受賞したように、顕微鏡の観察技術は著しく向上している。しかしながら、光学顕微鏡ではまだ空間分解能に限度があり、電子顕微鏡では空間分解能は高いがその観察には試料を固定しなければならない、というジレンマがある。近年、同じ試料を光学顕微鏡、電子顕微鏡両方で観察する技術、光・電子相関顕微鏡法の進歩により細胞や組織のダイナミクスを高時間分解能かつ高空間分解能で観察できるようになってきている。本発表では、定量的生細胞イメージングと3次元電子顕微鏡法を組み合わせることで細胞核の形成過程を1分間隔かつナノメートルでのスケールで可視化し、主に核膜と核膜孔複合体の形成機構について得られた知見を議論したい。